テレサは、長いリーチを生かして試合をコントロールし、確実に試合をものにするというスタイルで、デビューから三年間、一度も負けを経験することがないまま、世界ランク入りを果たした。
更に何試合かを勝ち、テレサのランキングが世界六位まで上がった頃、当時まだ世界ランク外だったロクシーとの試合を控えていたテレサに、当時のチャンピオンとのタイトルマッチの話が持ち込まれて来た。
この試合をすっきり勝って、世界挑戦に弾みをつける。…… そんな腹づもりでロクシーとの対戦に臨んだテレサだったが、結果はテレサの描いていた青写真とはまったく違っていた。第三ラウンド終了のゴングが鳴るよりも前に、ロクシーに滅多打ちにされたテレサは、完全に意識を失い、キャンバスに長々と横たわっていた。
世界ランク外の選手に早々にKOされたことで、結局、テレサの世界タイトル挑戦の話は消滅してしまった。逆にテレサに勝って世界ランク入りを果たしたロクシーは、その後すぐにタイトル挑戦のチャンスを掴み、見事にチャンピオンを撃破。RXミドル級のタイトルを獲得した。
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三年後、ランキングを三位まで上げたテレサは、ロクシーの持つミドル級タイトルに挑戦した。しかし、またしてもロクシーの豪打の前に屈し、四ラウンドKO負け。タイトルマッチの陵辱ペナルティ基準となる五ラウンドを全うできなかった敗者として、タイトルを防衛したロクシーに、リングの上で犯されるという憂き目を見ることになった。
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ロクシーとの二度目の敗戦から立ち直り、再び連勝街道を進み始めたテレサは、三十歳を向かえる頃には、ランキングを自己最高位である一位まで上げていた。そして、ロクシーへの指名挑戦権を賭けたランキング二位の選手との試合に見事なKO勝ちを収めたテレサは、世界タイトルへの再チャレンジとなる、ロクシーとの三度目の対戦を迎えることになった。
リングコスチュームに着替えを済ませ、控室のストゥールに腰を下ろしたテレサは、赤いグローブに覆われた左の拳をじっと見つめていた。
年齢を考えると、これが私にとって、タイトル挑戦の最後のチャンス。……
今夜は、今まで培ってきた技術をすべて出し切って闘う。…… 今夜は必ず勝つ。……
勝って、必ず、世界タイトルをこの手に掴んでみせる。……
やがて、RXの係員から、リングインするようにと、テレサの元に連絡が入った。ストゥールから腰を上げたテレサは、もう一度左の拳を強く握り締めてから控室のドアを通り抜け、静かな闘気を漂わせながら、リングに続く通路へと姿を消した。