RXの出場選手資格を手にできる二十歳の誕生日を翌週に控えたニコルは、通い慣れたジムでその日のトレーニングメニューを精力的にこなし、自宅に帰ってきた。シャワーを浴び、大きなタオルで髪を拭いながら、ニコルがPCの電源を入れると、RXの事務局から一通のメールが届いていた。

 いよいよデビュー戦が決まったのかな? …… ニコルは期待に胸を膨らませ、すぐにメールを開けてみた。しかし、そこに書かれていた内容は、ニコルが考えていたものとは、少し違っていた。

『 …… 次回ボクシング興行の新人戦に参加予定の選手が練習中のケガにより出場できなくなったため、RXでは、現在、この選手の代替選手として、ボクシング戦未出場のライト級登録選手を求めており、あなたはこの条件に合致する候補者の一人である。出場する意思がある場合は、早急にその旨連絡されたし。対戦者のプロフィールは、RX公式サイトの登録選手一覧にて確認可能。尚、試合契約の内容については、…… 』

「うーん、ボクシングかぁ。……」

 ニコルはやや困惑したような声を洩らした。ニコルもいずれはボクシングの試合に出てみたいと思っていたし、そのためにこの半年間、ボクシングのトレーニングにも力を入れてきた。が、それはあくまでも、本業にと思っているレスリング系の試合を何試合かこなしたあとのことだと考えていたからだった。

 あまり気乗りはしなかったものの、念の為、ニコルは、ビビアンという名前の対戦者のプロフィールページを追ってみることにした。

 そこには、東洋人特有の容貌をした女性の写真が何枚か掲載されていた。テキスト欄には、「過去、アクション映画に何本か出演。ヌードモデルとしても活動中。」とあり、「ボクシングを含め、格闘全般で、試合の経験はまだない。」とも記載されていた。

「あ、この人だったら、相手にちょうどいいかも。……」

 モニタに映し出されたビビアンの写真を眺めているうちに、ニコルは、ビビアンの相手としてリングに上がることに、だんだん乗り気になってきた。試合契約の内容に、「代替出場の見返りとして、ファイトマネーが20%増額される」とあったこともニコルを後押しした。

 とりあえず即答は避けて一晩考えたニコルだったが、結局、翌日の朝、ケガをした選手の代わりに試合に出てもいいとの連絡を、RXに入れた。二日後、RXから、「代替選手として、あなたに試合に出てもらうことに決まった。」との連絡を受けたニコルは、その日から、トレーニングメニューを、よりボクシング中心のものへと切り替え、来るべきRXリングデビューに向けて、準備を整え始めた。