「……!!」

 背中に活を入れられ、真紀は意識を取り戻した。

 自分が、今、どういう状況に置かれているのか、真紀には、すぐにわからなかった。しかし、ぼんやりとしていた視界がはっきりしてくるに連れて、真紀は、自分がリングのほぼ真ん中で、キャンバスの上に座らされていることに気がついた。そして、真紀の頭に、メイリンとの試合に負けたこと、さらに、試合が終わったあと、メイリンに、スリーパーホールドに極められ、意識が遠のいていった記憶が、一気に蘇ってきた。

 私は、失神していた。その間に、何かされてはいないか、…… 真紀は、慌てて、自分の身の回りに視線を移した。

 まずはじめに、真紀の目に留まったのは、真紀の両拳を覆っているボクシンググローブの、手首のあたりにきつく巻かれた、革製の黒いベルトだった。幅七センチほどの、その黒いベルトには、穴の開いた金具が埋め込まれていて、その穴に、ベルトの幅よりもやや直径の小さい、頑丈そうなリングが通っていた。さらに、それぞれのリングは、これも、とても頑丈そうな黒い鎖の、一番端に当たる環に繋がれていた。

「…… な、…… 何これ?……」

 思わずそう口走った真紀が、視線を泳がずと、真紀の豊かな胸を覆い隠しているコスチュームがちらりと視界に入ったが、真紀には、それが、試合中に、真紀が身に付けていたものではないように感じられた。そして、真紀が、もう一度良く見てみると、それは、試合用コスチュームのスポーツブラと同じ色合いの、ビキニのトップスのようだった。

 意識を失っている間に、ブラだけ着替えさせられている。一体、なぜ。…… 怖くなった真紀は、両腕で胸をすっぽりと覆い、不安そうに周りを見回した。すると、リングの外にも明らかな変化があった。試合中、リングの外周をぐるりと取り囲むようにしていた観客たちは、いつの間にか、四角いリングの、四辺のうちの一辺へ、…… 坂田が、彼が接待のお客さんだと真紀に話した男の席がある一辺へと、全員が移動を終えていた。

 なぜ、客たちが、席を移動したのか、…… 真紀がその理由を考えようとしたとき、不意に、真紀の両手首に巻かれた手枷に繋がっている黒い鎖が真上に引き上げられ、真紀は、キャンバスの上に腰を下ろしたまま、バンザイをするような格好にさせられてしまった。驚いた真紀が上を見上げると、そこには、天井近くに吊り下げられた滑車があり、真紀の腕を上に引っ張り上げた鎖が、その中を通っていた。

 鎖は、真紀の腕だけを引き上げる高さで、一旦止まったが、またすぐに、大きな力で引き上げられ、ついには、真紀のお尻が浮き上がった。そして、その黒い鎖は、真紀が、やっと爪先立ちができる高さで止められた。

 これから何が起こるのか、自分は、いったい、どうされてしまうのか、…… 半ば宙吊りにされた真紀が、そればかりを案じていると、背後から、メイリンが、真紀のすぐ横をすっと通り過ぎ、真紀の目の前に現れた。

 真紀の正面で立ち止まった、メイリンの姿を見た真紀の背筋に、とても冷たいものが走った。

 メイリンのコスチュームは、スポーツブラとトランクスから、黒のエナメル素材に、鋲やチェーンなどをあしらった、女王様風のファッションに替わっていた。そして、黒いボクシンググローブを脱ぎ去ったメイリンの手には、グリップ部分の先端に、何本かの革紐が束ねられているタイプの、黒い鞭が握られていた。


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 メイリンは、鞭の他にもう一つ、紅色の布切れのようなものを携えていた。真紀が、それが、試合中に自分がしていたスポーツブラであることに気づいた様子を見せると、メイリンは、「ああ、これのことね」 とでも言いたげに、真紀の目の前で、紅色のスポーツブラをひらつかせた。そして、手にしていた真紀のスポーツブラを、自分の足元に落としたメイリンは、客たちが集まっている方に、真紀の身体の正面を向けたあと、真紀の背後に回り、顔を、真紀の耳元に寄せた。

「こういう格好だと、鎖が邪魔になっちゃうから、星野さんが気を失ってる間に、取り替えさせてもらいました。…… 大丈夫ですよ。そのビキニも、すぐに脱がしてあげますから。」

 そう言い終わるか終わらないかのうちに、メイリンは、真紀が身につけているビキニトップの背中の蝶結びを、静かに解いた。それまで、メイリンの顔を、横目でキッと睨みつけていた真紀は、ビキニトップが、赤ん坊の涎掛けのように、首に引っかかっているだけになったことに気づくと、「きゃぁっ!!」 と叫び声を上げた。そして、反射的に身体を捩り、メイリンを蹴り飛ばす素振りを見せた。

 メイリンは、それを見越していたかのように、すっと、真紀の足が届かないところまで下がった。そして、真紀との距離を保ったまま、真紀の左側へと、ゆっくり歩き出した。

「星野さん、…… まだ、自分の立場を理解できていないようですね。…… 星野さんは、私に負けて、私の奴隷になった。…… それは、こういうことなんですよ。」

 歩みを止めたメイリンが、おもむろに、手にしていた鞭を思い切り振るうと、ぴしぃっ、という、ややかん高い、乾いた音が、場内に響き渡った。

「ぎゃぁぁぁっ!!」

 悲鳴を上げた真紀は、背中に走る痛みに、大きく顔を歪めた。

「ご主人様を足蹴にしようとするなんて、奴隷には許されないんです。わかりますよね。」

 そう言うと、メイリンは、もう一度、真紀の背中を目掛けて、鞭を振るった。乾いた破裂音のあと、真紀の口から、また悲鳴が洩れた。

 真紀の背中に、うっすらと、二本の赤い筋が浮き上がると、メイリンは、再び、後ろから真紀に近づき、真紀の耳元で囁いた。

「ご自分の立場、もうわかりましたよね。」

 そう言いながら、メイリンは、真紀の首の裏の蝶結びに手をかけた。すると、ほどなく、三角形を横に二つ並べた形の紅色の布が、静かに、キャンバスの上に落ち、真紀の綺麗な乳房が、リングサイド席の観客の前にさらけ出された。

 屈辱感と絶望感、そして、鞭打たれた背中から伝わってくる痛みに、真紀の目には、涙が滲んでいた。


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 真紀のトップスを剥ぎ終わったあとも、メイリンは、何発か、真紀の身体に鞭を飛ばした。そして、手を一旦休めると、目に涙を溜め、恨めしそうに自分を見つめている真紀に、冷たく言い放った。

「私を足蹴にしようとしたことの罰は、これで終わりにしてあげます。…… でも、星野さん、…… 試合が終わったあと、星野さんは、私の顔に、唾を吐きましたね。あれも当然、奴隷のあなたには許されないこと。…… 罰を受けていただきますよ。」

 またしても、メイリンは、手にした鞭を何度も振り上げ、真紀を鞭打った。そして、黒い革紐の束に打たれるたびに、真紀は悲鳴を上げ、その痛みに身体を捩った。

 真紀の背中と、乳房のすぐ下から、お臍のあたり一面に刻まれた赤い筋の数が、両手の指に収まり切らなくなったとき、ようやく、メイリンの手が止まった。

 正面から真紀に歩み寄ったメイリンは、がっくりと首をうなだれ、涙をぼろぼろと流しながら、すすり泣きの声を洩らしている真紀の髪を掴んで、顔を自分の方に向けさせた。

「…… 許して、…… お願い、…… もう、…… 許して … くだ … さい。……」

 真紀は、泣き声混じりに、何とかメイリンにそう告げた。すると、メイリンは、驚いたように少しだけ目を丸くしたあと、口許に笑みを浮かべた。

「何を言ってるんです? 星野さん。…… ショーの幕は、まだ上がったばかりじゃありませんか。…… どうやら、そういう興醒めなセリフを、口にすることができないようにしないといけないみたいですね。」

 そう言うと、メイリンは、エナメルのボトムウエアに引っ掛けてあった、ボールギャグを抜き取った。そして、ゴルフボールほどの大きさの、穴の開いた赤いプラスチック球を、真紀の口許に宛がい、「さあ、口を開けてください。」 と、真紀に命じた。

 メイリンの命令に従って、真紀は、わずかに口を開いた。しかし、真紀の口は、唇がふるふると震えるだけで、それ以上には開かなかった。手首を縛られて宙吊りにされ、鞭で打たれるという、今までに想像もしたことがないような、恐ろしい体験によって、真紀は完全に怯え切ってしまっていた。

 ちゃんと口を開けなければ、また鞭で打たれる。…… 頭ではそうわかっていても、真紀の恐怖心と自己防衛本能は、新たな拘束具の受け入れを頑なに拒否し、口の動きを麻痺させた。

 ついには、真紀は口を大きく開けることをあきらめ、メイリンから顔を背けて、小さく首を横に振った。すると、真紀の理性が予想していたように、真紀のわき腹のあたりに、メイリンの鞭が飛んだ。

 悲鳴を上げ、開いたままになっていた真紀の口に、メイリンは、ボールギャグのプラスチック球を押し込んだ。そして、真紀の背中側に回り込んだメイリンは、真紀の首の後ろで、プラスチック球に繋がっている革のストラップを、ぐっと締め上げた。


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 さらに何発か、真紀を鞭打ったあと、メイリンは、手にしていた鞭を自分の肩に引っ掛け、真紀の身体をきっちりと客席に向けてから、真紀の乳房を弄り始めた。

 思ってたよりも、素敵なおっぱいですね。…… これなら、アダルトビデオに出ても、きっと、すごくいいお金になりますよ。…… そんな言葉を真紀の耳元で囁きながら、メイリンは、真紀の乳房全体を荒々しく揉みしだいたり、指先で乳首を捏ねたりしていた。

 真紀は、盛んに身体を捩り、嫌がる素振りを見せたが、メイリンが、真紀の乳首を口に含み、舌先で転がしたり、甘噛みしたりしていると、真紀の口から洩れ出てくる、くぐもった泣き声の中に、ときおり、小さな喘ぎ声が混じるようになってきた。

「感度もいいみたいですね。…… じゃぁ、こっちの方はどうでしょう?」

 そう言うと、メイリンは、真紀の背後に回り、右手を真紀の乳房から離して、トランクスの上から、真紀の股間をまさぐり始めた。真紀は、反射的に、お尻を突き出すようにして、メイリンの手から少しでも逃れようともがいたが、メイリンの右手は、どんどん奥深くに入り込み、艶かしい動きで、真紀の女性を刺激し続けた。

 しばらくすると、メイリンは、真紀の乳首と股間をまさぐっていた手を離し、真紀の正面に回って、真紀のトランクスを、真紀の足許までずり下ろした。

「それじゃ、善戦したご褒美に、もっと気持ち良くしてあげますね。…… 道具を取ってきますから、ちゃんと、お客様の方を向いて待ってるんですよ。いいですね。」

 白い小さなアンダーウエアで、かろうじて股間が隠れているだけになってしまった真紀に、メイリンは、そう言い残し、一旦、真紀の背後へと消えた。


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 メイリンから一時的に放置され、つかの間の静寂に浸っていた真紀は、ふと、自分の手首を吊っている鎖が、少しずつ下ろされているのに気づいた。もしかすると、この手枷を解いてもらえるかも知れない、…… 一瞬だけ、真紀はそんな淡い期待を抱いたが、鎖は、真紀が少し膝を曲げても、踵がキャンバスにつく程の高さで止まった。そして、真紀の目の前に、再びメイリンが現れた。

 相変わらず、鞭を肩にかけているメイリンは、全体的に黒い色をした、大きなこけしのような形の道具を、新たに手にしていた。そして、メイリンは、真紀の正面に立ち、こけしの頭の部分を、アンダーウエアの上から、真紀の股間のふくらみに押し当て、胴の部分についているスイッチのようなものを入れた。すると、それは、ヴイィィーンという鈍い音を立てて、激しく振動し始めた。

「いやぁぁっ!」

 真紀は、鎖がわずかに下げられて、自分の脚で移動が可能になったギリギリの範囲に飛び退いた。すると、メイリンは、その道具を、真紀の、すぐ目の前に差し出した。

「電動マッサージ器。ま、バイブレータですね。感度のいい娘は、一度この味を知ったら、病み付きになるんですよ。…… さぁ、イかせてあげますから、股を開いてください。」

 メイリンがそう言うと、真紀は、すでに涙でぐちゃぐちゃになっている顔を、ぶるぶると横に振った。その仕草を見たメイリンは、肩にかけてあった鞭を手に取り、電マを拒否した真紀を目掛けて、鞭を振るった。涎が止まらなくなっている真紀の口から、また悲鳴が洩れ、真紀の乳首の、ほんの少し下に、また一本、うっすらと赤い筋が浮かび上がった。

「今までは、服を着れば痕が隠れて、テレビカメラの前に立っても、誰も気づかないような場所だけしか打たないように、ずいぶん気を遣ってたんですけどね。…… でも、あんまり世話を焼かすようだと、この鞭が、もうどこに飛ぶかわかりませんよ、星野さん。…… さあ、股を開きなさい。」

 ぴしゃりと言い切られた真紀は、恨めしそうにメイリンを見つめると、肩幅ほどの間隔に足を広げた。しかし、メイリンは、真紀の正面にしゃがみこみ、やや内股になっている真紀の、太ももの内側を軽く叩いて、もっと大きく股を開くよう、真紀に、無言で要求してきた。真紀は、がっくりとうなだれて、小さな泣き声を洩らし、観念したように、肩幅の倍ほどまで、両足の間隔を広げた。

 メイリンは、真紀の顔を見上げてにやりと笑うと、再び、電動マッサージ器のスイッチを入れた。そして、唸るような音を上げながら、激しく振動している、マッサージ器の先端を、再び、真紀の股間に押し当てた。


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 その後、しばらくの間、メイリンは、真紀の乳首を捏ねたり、しゃぶったりしながら、真紀の股間を電動マッサージ器で責め続けた。

 そのまま、五分ほどの時間が過ぎると、ボールギャグで開いたままに固定され、涎がだらだらと垂れている真紀の口から、ときおり、明らかに喘ぎと思しき声が洩れるようになってきた。また、初めのうちは、比較的落ち着いていた真紀の呼吸が、かなり荒くなり、同じタイミングで膨らんだりへこんだりしていたお腹の動きも、徐々に大きくなってきた。

 女性としての昂ぶりを、必死に抑え込もうとしているものの、さらに数分が経過すると、いよいよ真紀の喘ぎ声は止まらなくなってきた。そして、それに追い討ちをかけるように、メイリンは、電動マッサージ器のパワーを最大に引き上げ、逃げようとする真紀の腰の辺りを片腕でがっちりと押さえ込んで、ヘッドを真紀の股間に強く押し当てた。

 真紀は、叫びにも似た喘ぎ声を何度も洩らしながら、激しく身体を捩ったり、ぶるぶると全身を震わせたりしていたが、やがて、それまでとは違う、泣き声のような、切なさの籠っ、長い声を上げ、全身を硬直させた。

 そして、数秒後、硬直させていた真紀の身体から、力が一気に抜け落ちるのと同時に、透明な、熱い液体が、真紀の股間を覆っていたアンダーウエアにどっと洩れ出し、その裾から、真紀の太腿を伝った。

「まぁ、潮まで吹いちゃって。…… 星野さん、よっぽど気持ちよかったんですね。」

 メイリンは、嬉しそうにそう言うと、電動マッサージ器を放り出し、真紀の白いアンダーウエアに両手をかけて、それを真紀の股間から剥がすようにして、ずり下ろし始めた。

 真紀は、自分の敗戦を見届けた客たちの目の前で上り詰めてしまったことのショックに、ただ泣くばかりで、最後のコスチュームを剥ぎ取られそうになっても、まったく抵抗する素振りを見せなかった。

 やがて、ぐっしょりと濡れた真紀のアンダーウエアは、真紀の脚をするりと通り抜け、完全に、メイリンの手の内に収まった。


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 真紀を全裸に剥いたメイリンは、キャンバスに置いてあった、真紀のスポーツブラとトランクスを拾い上げた。そして、がっくりとうなだれている真紀の髪を掴んで、顔を上げさせると、今しがた、真紀から取り上げたアンダーウエアと一緒にして、真紀の顔の前でひらひらと揺らせて見せた。真紀は、目の前に差し出された、かつては自分の身を包んでいたコスチューを、ちらりとだけ見たが、すぐに顔を背け、メイリンが掴んでいた自分の髪を離すと、また、俯いてしまった。

 真紀の反応を確認すると、メイリンは、真紀から奪い取ったコスチュームを両手に持ち替え、客たちに、これ見よがしにした。そして、真紀にも聞こえるような、はっきりとした大きな声で、客たちに告げた。

「さあ、皆さん、メイリンからの、素敵なプレゼントですよ。…… この、星野真紀の汗と涙が染み込んだ、ブラとトランクス、それと、星野真紀のおツユで、ぐちょぐちょに濡れている、白いパンティ。…… 全部まとめてお持ち帰りできる、今夜、一番ラッキーな殿方はどなたかしら?」

 メイリンの声に、真紀は顔を上げた。自分が漏らした愛液が、べったりと染み付いているアンダーウエアが、他人の手に渡ってしまう。…… それは、真紀にとって、アクメに達した姿を客たちに見られたことと同じぐらいの、耐え難い屈辱、恥辱だった。

「いやぁぁぁ! ……… やめてぇぇぇ! ………」

 真紀は、そう叫んだつもりだったが、口に結わえつけられたボールギャグに遮られ、それは言葉にならなかった。

 そんな真紀を尻目に、メイリンは、真紀のコスチュームを見せびらかしながら、客たちが集まっているサイドのロープ際を一往復したあと、上段ロープと中段ロープの間から、身を乗り出し、この夜の主賓である、接待を受けている外国人に、真紀のコスチュームを、まとめて手渡した。

 さらに、メイリンは、ひとときだけ、真紀の乳房を覆い隠していたビキニトップを、キャンバスから拾い上げ、「これもサービスよ。」と言いながら、その外国人に向かって放り投げたあと、その男に向かって、投げキッスをした。


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 メイリンのプレゼントタイムが終わると、真紀を吊り上げていた鎖が、床まで下ろされ、真紀は、キャンバスの上に横倒しになった。

 身体を丸め、腕で顔を覆うようにして、すすり泣きの声を洩らしていた真紀は、ふと、まだ自分の両拳を覆っているボクシンググローブを、誰かがわずかに引っ張っているように感じた。真紀が、恐る恐る目を開けてみると、メイリンが、真紀のグローブにきつく巻かれていた黒い革ベルトを、解いているところだった。

 やがて、割と慣れた手つきで、メイリンが真紀の両腕から革のベルトを外し終わり、真紀は完全に、手枷から解放された。そして、メイリンが自分の背中側に移動し、その姿が見えなくなると、真紀は、「口枷も外してもらえるんだ。そうなら、これで、やっと終わりかも知れない。」 という、淡い期待を抱いた。

 しかし、真紀の期待は、あっさりと裏切られてしまった。真紀が待ち望んでいた、ボールギャグの締め付けが緩むのを感じる前に、真紀は、自分の首に、何かが巻きつけられるような感覚を覚えた。そして、首輪という、新たな拘束具を課された真紀の口から、ボールギャグが外されることはなかった。

 作業を終えて立ち上がったメイリンは、自分の肩に黒い鞭を掛けると、首輪に繋がっている細い鎖を、二周ほど左手に巻き、それを、上向きに、ぐっと引っ張った。すると、真紀は、腕で覆い隠していた顔を、メイリンの方に向けた。

「さあ、お客様に、びちゃびちゃになった、あなたのおま○こを見せに行きますよ。四つん這いになって、ついていらっしゃい。」

 メイリンの言葉を受けた真紀の顔に、明らかにショックの色が浮かんだ。真紀は、懇願の表情でメイリンを見つめ、ふるふると小さく首を横に振ったが、メイリンに、鞭で一度打たれると、真紀は、のろのろとした動きで、キャンバスに下ろしていた腰を浮かせた。


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 メイリンは、客たちが集まっている近くのロープ際で、真紀を二度ほど往復させたあと、リングの外に出て、下段ロープの下から、真紀の首輪から伸びている鎖を通した。そして、メイリンに引かれるなりに、真紀も下段ロープの下を潜り、ボールギャグを咥えた口から、だらだらと涎を垂らしながら、プライムローズの床に敷かれた、ふかふかの絨毯の上を這い始めた。

 メイリンは、笑顔を振り撒きながら、集まっている客たちの間を縫うようにして、鎖に繋がれた真紀を引き回した。その途中、メイリンは、牡犬が電柱におしっこをするようなポーズを、何度か真紀に要求した。

 真紀が、俯いて顔を隠そうとすると、そのたびごとに、メイリンは、真紀の髪を掴んで顔を上に向けさせた。また、真紀が、少しでも立ち止まろうとしたり、要求したポーズを拒むような仕草を見せたりすると、メイリンは、真紀の背中や、アンダーウエアを剥ぎ取られてあらわになった真紀のお尻に、容赦なく鞭を浴びせた。

 何度も大きく蛇行しながら、プライムローズに集まった客全員に、真紀の、この上なく恥ずかしい姿を間近で見せ終わると、メイリンは、真紀を引き連れて、再びリングの中に戻った。そして、リングのほぼ中央まで真紀を誘導し、真紀のわき腹のあたりを軽く蹴った。

 潰れるように、その場に横倒しになった真紀は、呼吸に合わせて、お腹を膨らませたり、へこませたりしているだけで、それ以外には、まったく動かなかった。あまりにも強烈な恥ずかしさに耐え続けていた真紀は、精神的に極限まで疲弊してしまっており、グローブをつけたままの手で、顔を覆ったり、股間を隠したりしようとする、ほんのわずかな気力さえも、すでに失っていた。

 真紀を横倒しにしたメイリンは、真紀の背後に回って、真紀の首輪を外し、さらに、ボールギャグの留め金を解いて、ようやく真紀の口を、ボールギャグから開放した。しかし、真紀には、拘束具を解かれたことに対する、一片の安堵の感情すらも、もう湧き上がってはこなかった。

 そのあと、メイリンは、黒コーナーに歩み寄り、手にしていた、鎖のついた首輪とボールギャグ、それと、真紀の身体に何十回も打ちつけた黒い鞭を、リングの外に捨てた。そして、真紀とリングの外に散歩していた間に用意させておいた、最後の責め具を拾い上げると、それを装着し始めた。

 わずかの時間の後、メイリンは、腰の革ベルトをきりりと締め終わった。メイリンの股間からは、どこで見つけてきたのを訝りたくなるような、超極太の、黒光りするディルドゥが突き出していた。


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 メイリンは、キャンバスの上で横倒しになったまま、ぐったりとしている真紀の身体を、爪先で転がして仰向けにした。そして、真紀の身体を跨いで、真紀の髪を掴み、上半身を起こすと、真紀の顔を、自分の股間から突き出している、巨大なディルドゥに近づけた。

「しゃぶりなさい。」

 メイリンの命令に、真紀は、ちらりとだけメイリンの顔を見上げたあと、中途半端に口を開き、舌を覗かせて、目の前に迫っているディルドゥを、ぺろぺろと舐め始めた。すると、メイリンは、真紀の頬を、強く平手で叩いた。

「そうじゃないわ。子供がアイスキャンディーをしゃぶるように、ちゃんと頬張るのよ。」

 メイリンに叱られた真紀は、さらに大きく口を開け、ディルドゥに宛がったが、それでも、やや膨らんだディルドゥの先端は、真紀の歯と歯の間を通らなかった。すると、メイリンは、真紀の頭を抑えて、腰をぐっと突き出し、相変わらず涎まみれになっている真紀の口の中に、ディルドゥの先端を押し込んだ。

 さらに、メイリンは、真紀の頭を、両手で掴んで前後に揺さぶった。口一杯に異物を押し込まれた真紀は、やがて、「ぅえっ」と苦しそうな声を洩らし、もがくようにして、必死にディルドゥから口を抜いた。すると、またしても、真紀の頬に、メイリンの平手打ちが飛んだ。

「何やってるの? もっと口の奥まで、呑みこむようにして、ちゃんと咥え込みなさい。」

 そう言うと、メイリンは、再び真紀の口の中にディルドゥを押し込んだ。

 そんなことを五、六回繰り返し、真紀がまた必死に口からディルドゥを抜き取ったあと、メイリンが真紀の頭から手を離すと、起こされていた真紀の上半身がキャンバスへと落ちた。そして、真紀は、生気を失った瞳を半開きにして、大の字に伸びてしまった。
 


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 強制フェラから真紀を解放したメイリンは、真紀の下半身の方へ移動し、キャンバスの上に膝を下ろすと、真紀の両太腿のあたりを抱え込んで、大きく股を開かせた。

 そして、メイリンは、右手で鷲掴みにした黒い巨大ディルドゥの先端を、真紀の女性自身に宛がい、そのまま、腰をゆっくり押し出すようにして、真紀の中に、巨大ディルドゥを、根元まで挿入した。ゆっくり挿入した。すると、真紀の口から、「ぁあぁぁ……」という、力ない声が洩れた。

 貫通式を終えたメイリンは、客たちの方に顔を向けると、「さあ、ここからがクライマックスですよ。」とでも言いたげに、顔一杯に妖しい笑みを浮かべた。そして、再び真紀を見下ろすと、真紀の両太腿をがっちりと抱え込んだまま、艶かしい動きで、腰を前後に揺らし始めた。

 その後も、メイリンは、真紀の身体をうつ伏せにして腰を浮かせたり、横向きになった真紀の片足を抱え上げるようにしたりしながら、巨大ディルドゥで真紀の女性自身を抉るように、腰を大きくストロークさせた。

 その動きに合わせて、真紀の口から、喘ぎ声ともよがり声ともつかない声が洩れていた。そして、それは、徐々に大きく、また、獣の咆哮のような、荒々しいものに変わりつつあった。宙吊りにされて、電マで責められていたときとは違い、真紀はもう、身体の昂ぶりを我慢するような素振りは一切見せず、ただ、女性自身を抉られるままに、声を洩らすだけになっていた。

 やがて、メイリンは、再び真紀の身体を仰向けにし、それまでよりも一層激しく、腰を動かした。そして、しばらくすると、真紀は、全身をきつく硬直させて、吼えるような叫び声を上げ、その声が止まったと同時に、巨大な黒いディルドゥを咥え込んだ女性自身から、熱い液体を噴出させた。


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 客たちの前で、二度までも潮を吹いた真紀の身体から、力が抜け落ちるのを確認したメイリンは、真紀の中からディルドゥを抜き取り、すっと立ち上がった。そして、『メイリン様のSMショー』を心ゆくまで堪能した客たちが集まっている側のロープの近くにやってくると、顔に満面の笑みを湛え、何度か小さくお辞儀をした。

 その傍では、大の字に横たわった真紀が、ときおり、ぴくんぴくんと身体を震わせていた。真紀は、巨大ディルドゥによってもたらされた、この夜二度目のアクメの衝撃に、白眼を剥き、完全に失神してしまっていた。

 客たちへの、最後の挨拶を終えたメイリンは、そんな真紀に一瞥もくれることなく、黒コーナー近くのロープを潜ると、微塵も疲れた様子を見せずに、ぴんと背筋を立てて、控え室へと消えていった。


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 真紀が、プライムローズのリングの上で失神した夜から、十日ほどが経った、よく晴れたある日の昼下がり。

 銀座の、目抜き通りから三ブロックほど離れたところにある、小洒落た喫茶店のドアを開けたメイリンは、店の一番奥に置かれているテーブルに坂田の姿を見つけ、そのテーブルに向かって歩き出した。そして、坂田と向かい合うように座っていた、季節の割には肌の露出が多めの衣装を身につけていた女性が振り返ると、メイリンは、「あぁ、千夏さんもご一緒だったんですね。」と口に出し、彼女に向かって、にっこりと微笑んだ。

 メイリンが千夏の隣の椅子に腰を下ろし、近寄ってきた喫茶店の従業員にコーヒーを注文すると、坂田は、持参していたセカンドバッグを開け、中に入っていた一枚の封筒を手に取った。

「じゃ、早速だけど、これ、こないだの仕事の分。金額確かめといて。」

 坂田は、そう言って、その封筒をメイリン手渡した。メイリンは、受け取った封筒から、中に入っていた一枚の小切手を取り出し、金額欄に書かれた七桁の数字を確認した。

「あら、ずいぶん多くありません? こんなにいただけるんじゃなかったはずですけど?」

「ああ、例の、接待のお客さんのウケがすごく良くてね。…… 依頼主からボーナスが出てるんだ。もらっておいてくれないかな。」

「そうですか。…… じゃ、遠慮せずにいただいておきます。どうもありがとうございます。」

 メイリンは、笑顔を坂田に向けたまま小さく頭を下げると、再び小切手を封筒の中にしまい、それを自分のバッグの中に収めた。

「メイリンちゃんには、ずいぶん無理聞いてもらっちゃって、申し訳なかったねぇ。…… この話が来てから、星野真紀をリングに上げるために、ふた月以上も、彼女を、チクチク皮肉ってもらったわけだし。」

「ああ、そうですね。…… さすがに、真紀ちゃんには、ちょっと悪いことしたかな、って思いますけど、…… でも、芸能界とか、アイドル界なんて、綺麗ごとばかりのところじゃないですからね。後悔はしてないですよ。」

 その後、三人は、千夏がプライムローズで働くことになったという話題に移った。

 おしゃべりを続けている間、坂田は、一晩、選手とセコンドという関係だけであったにしては、メイリンと千夏とが、すでに、ずいぶん仲のいい間柄になっているように感じられた。千夏はメイリンを、「メイリンちゃん」、と、『ちゃん付け』で、メイリンは千夏を、「千夏さん」、と、『さん付け』で呼んでいた。実のところは、メイリンの方が、千夏よりも四つ年上なのだが、千夏はお姉さんっぽい感じのキャラでもあるし、こういう関係の方が、この二人には自然なんだろうな、とも、坂田は思った。

 三つ目の話題が何となく一段落し、三人の会話が途切れかけたとき、メイリンが、坂田に笑顔を向けながら、口を開いた。

「坂田さんは、また、私と星野さんとで試合を組むつもりでいらっしゃるんでしょうけど、そのときは、私、…… 脱いでもいいんですよ。…… もちろん、その分、割増料金はいただきますけど。」

 メイリンの、突然の申し出に、坂田も千夏も、少し驚いた表情を見せたが、メイリンは、相変わらず、にこにこ微笑みながら、話を続けた。

「星野さんは、もう一回丸裸にされちゃってるから、トップレスが再戦の条件でも、それを理由に断ることなんてしないでしょ? その方が、高く売れるだろうし、坂田さんにとっては、都合がいいんじゃありませんか?」

「…… あ、…… ああ、…… もちろん、そうだけど。……」

 坂田が答えに窮していると、千夏が、横から話に入り込んできた。

「メイリンちゃん、いいなぁ。…… アタシも星野さんと試合したいんだけどな。」

「あら、どうして?」

「…… 実はねぇ、アタシ、星野さんのおっぱいに、ちょっと興味あんのよ。…… でさぁ、ボクシングの試合をすれば、クリンチしてるときとかに、胸同士が、むにゅっ、て、くっつくじゃない? …… あれ、やってみたいんだよね。トップレスだったら、ナマおっぱい同士で、直に触れ合うことになるし、…… 何かこう、…… きっと、すっごく気持ちいいんじゃないかな、って気がするんだよね。」

「やだぁ。千夏さんって、そんな趣味があったんですかぁ?」

「いいじゃない。気持ちいいもんは気持ちいいんだから。」

 女性二人が勝手に盛り上がっているのを、坂田は、少し呆れた様子で眺めていた。

「んー、千夏さんの言うことも、まったくわからないでもないけど、…… あ、それなら、星野さんが先に千夏さんとトップレスで試合をして、千夏さんに勝つこと、これが、私が再戦に応じる条件だ、ってことにしません? そうすれば、千夏さんも、星野さんのおっぱいを堪能できるし、私と試合する前にもう一度、星野さんを、おっぱい丸出しでリングに上げることができる。…… 星野さんの性格なら、間違いなく乗ってくるはずですよ。」

「あ、面白そうね。…… 途中までいい勝負、みたいな感じにしといて、最後にうまく負けてあげればいいんでしょ? うん。その話、乗った。…… ね、坂田さん、そうしましょうよ。」

 メイリンと千夏は、二人並んで瞳を輝かせ、坂田を見つめた。坂田は、胸の前で両腕を組み、「うーん、……」と唸ったが、その表情は、まんざら悩んでいるようでもなかった。

「まぁ、君たちがそう言うなら、…… そういう形で進めることにしようか。僕にとっても、ありがたい話だしね。…… それにしても、根っからの善人だとは思ってなかったけど、二人とも、結構腹黒い、…… って言うか、かなりのワルだねぇ。」

「あら、いけません? 悪人でいる方が、人生楽しいですよ。…… ね、メイリンちゃん。」

「そうですね。…… どうやら、千夏さんも、私と同類みたいですね。」

 メイリンが、千夏にそう答えると、千夏は、両腕でメイリンを引き寄せ、メイリンの頭に頬をつけて、嬉しそうに微笑んだ。メイリンも、満面の笑みを浮かべながら、千夏に身体を寄せていた。

 二人の仕草に、坂田は、また、少し呆れたような表情に戻った。

 そして、「同類ねぇ。……」 と呟いたあと、鼻から小さく息を吐き出し、わずかに笑った。


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獣たちの夜会

― 了 ―