ドミネーション【domination】 = 支配[威圧,抑制]すること; 優位を占めること、優勢、支配、統御; (独裁的な)統治
<小学館・プログレッシブ英和中辞典 第3版より>。キャットファイトの世界では、ギブアップしても許してもらえないルール、または、強者が弱者を一方的に痛めつけるさまを指す。
アメリカ国内某所にて、密かに営業をしている、とあるファイトサロン。そこには、週に一度、女たちのファイトに心を奪われた金持ちたちが集まり、黒いロープに囲まれたリングの上で繰り広げられる凄惨なファイトを、心ゆくまで楽しんでいた。
サロンでは、多くの魅力的なホステスたちが、目の肥えたパトロンたちの接客に当たっており、「リズ」の愛称で親しまれているエリザベスもその中の一人だった。間もなく三十歳を迎える古株ホステスであるリズは、自分の上客が、半年前にサロンに入店してきたキャンディという名の若い女に鞍替えしたことを苦々しく思っていて、何かにつけてキャンディに辛く当たっていた。パトロンたちの前ではおくびにも出さないものの、いつしかリズとキャンディの間には不穏な空気が流れ、その度合いは日を追うごとに激しくなっていった。
サロンを仕切っているエヴァという名の女は、二人の様子を傍から眺めていたが、ある夜、サロンの営業を終えてパトロンたちが引けてから、後片付けをしている二人を近くに呼び寄せた。
「あなたたちにも困ったものね。…… 仕方がないわ。ここはファイトサロン。だから、リングの上で白黒つけることにしましょう。あなたたち二人には、来週、パトロンの皆様の前で試合をしていただくことにします。ルールは、……
一番人気があることだし、失神決着オンリーのボクシングにでもしましょうか。負けた方はこのサロンから出て行く。これで文句はないわね?」
これを聞いたリズが満面に笑みを浮かべたのに対し、キャンディは、困惑の表情を浮かべ、縋るような目をエヴァに向けた。
「そんな、…… エヴァ様、…… ボクシングで試合なんて、私には、…… 第一、リズお姉様と私とでは、身体の大きさだってかなり違いますし、……」
リズはキャンディに一瞥をくれ、鼻で笑いながらキャンディの言葉に割って入った。
「往生際が悪いわね、キャンディ。せっかくエヴァ様が、私たちに決着をつけるチャンスを下さったんじゃないの。今さらいい娘ぶって、命乞いなんかしたってダメよ。……
もちろん私には異存ありませんわ、エヴァ様。この小娘をこらしめてやる場を用意していただいて、本当にありがとうございます。」
キャンディは、泣きながら、更にエヴァに縋ったが、エヴァは自分の考えを変える素振りを見せなかった。やがてキャンディは、「わかりました。……」と小さな声で返事をし、肩を落として、エヴァとリズのそばを離れていった。
若い頃に少しだけボクシングを経験したことのあるリズは、落胆した様子で作業を続けるキャンディを眺めながら、「一週間後、あの小生意気な娘に、お客様の前で堂々と仕置ができる」という喜びを隠すことができず、その夜は少し興奮しながら残りの仕事を終え、意気揚々と家路についた。
そして、一週間後、エヴァの言葉どおり、二人のホステスはパトロンたちが取り囲むリングに上がり、対角線上のコーナーに居る相手を見つめていた。
有頂天になっていたリズは、キャンディが試合前に店から逃げ出すのではなく、最終的に試合を受け入れたことを、まったく疑問に思わなかった。
それ以外にも、リズが知らないことは多かった。エヴァが、ややパトロンたちの人気に翳りが見えてきたリズのことを、ホステスとしてはもう用済みだと感じていたこと。エヴァは、キャンディを戦闘能力の極めて高いファイターであると正しく認識していて、どんなタイミングでサロンのリングにキャンディをデビューさせようかと、ずっと思案していたこと。そして、二人に試合を命じる前の週に、エヴァがキャンディを他のホステスたちから離れたところに呼び出し、二人だけで何やら話し合っていたこと……
試合が始まる前、リズとキャンディは、リングの真ん中で対峙していた。キャンディよりも十センチ近く背の高いリズは、キャンディが自分を恨めしそうに見つめている様子を、薄笑いを浮かべながら楽しそうに眺めていた。
やがてリズは、やや俯き加減になっているキャンディの顔を、右手のグローブで自分の方に向けさせた。
「試合が終わったとき、この可愛いお顔が、どんな風になっているのかしらねぇ。」
キャンディは、少しだけ顔を背け、横目でリズを睨んだ。すると、リズは左手を伸ばして、キャンディの乳房を持ち上げた。キャンディが「ひぃっ」と小さな声を上げると、その様子に、リズは嘲るような笑い声を洩らした。
「可愛くて、素敵なおっぱい。…… こっちもたぁんと可愛がってあげるわ。」
リズは、重さを測るような動きで、形のいいキャンディの乳房を弄りながら、相変わらず悔しそうな表情を向けている褐色の肌をした娘に、さらに言葉を続けた。
「簡単に失神なんてさせてあげないわよ。あなたが無様な姿で何度も何度もキャンバスに這う姿を、パトロンの皆様に、じっくり堪能していただくことにするわ。……
あなたが今までここでしてきたことを、たっぷり後悔させてあげる。…… 覚悟はできてるわよね、泥棒猫ちゃん。」
やがて、コーナーに控えるよう合図を受けた二人は、それぞれのコーナーへ戻っていった。すると、リズに背を向けたキャンディの顔から、悔しそうな表情が消え去った。
「泥棒猫か。…… 言いたい放題言ってくれたわね、リズおばさん。……」
心の中でそう呟いたキャンディは、ふっと息を吐き出し、口元に邪な笑みを浮かべた。
試合開始のゴングが鳴ると、キャンディは、顔を再び今にも泣き出しそうな表情に戻した。そして、青いグローブで顔の下半分をがっちりと覆い、少したどたどしい足取りで青コーナーを離れた。リズもにやにやと笑いながら、赤コーナーを離れ、ゆっくりとキャンディに近づいていった。
リズは、怯えの表情をあらわにしているキャンディに嘲りの視線を向け、腰の引けたファイティングポーズに構えて、自分の周りをやや斜め後ろに動き続けるキャンディとの間合いを少しずつ詰めていった。
「コソコソ逃げ回ってるだけじゃ、いつまでたっても試合は終わらないわよ、泥棒猫ちゃん。それに、見ていただいているパトロンの皆様にも失礼でしょ?
…… さあ、覚悟を決めて、かかっていらっしゃい。」
リズがそう挑発しても、相変わらず、キャンディはリズとの距離を置いたまま近づこうとせず、ただリズの周りを回り続けるだけだった。
しばらくすると、リズはすっとキャンディに近づき、パンチのレンジにキャンディを捉えてジャブを伸ばした。かろうじてグローブでブロックしたキャンディは、少し顔を顰め、一歩二歩と真後ろに下がった。キャンディの背中には、黒いコーナーマットが迫っていた。
「それじゃ、そろそろ、ショーの本番に入りましょうか。泥棒猫ちゃん。」
そう言うやいなや、リズは深く踏み込み、ガードの奥にあるキャンディの顔をめがけて、思い切り右腕をスイングした。するとキャンディは、リズの想像を遙かに超える素早さで身を屈めた。
鋭い動きで下に向けられたキャンディの顔が見えなくなる最後の瞬間、リズは、キャンディがにやりと笑ったような気がした。
「えっ!?」
驚きの表情を見せながらリズが力強く振り切った赤いグローブは、キャンディの綺麗なプラチナブロンドの髪をわずかに揺らしただけだった。
本能的に身の危険を察知したリズは、崩れかけていた体勢を戻し、キャンディから一歩退こうとした。しかし、その動きが終わる前に、キャンディは屈めていた腰を鋭くひねり、目にも止まらぬ速さで、右腕を伸ばした。そして、その拳を覆っていた青いグローブは、中途半端になってしまっていたリズのガードの下をすり抜けて、黒いトランクスのゴールドのベルトラインの上に深くめり込んでいた。
「ぶへぇ……」
何かが潰れるような鈍い音に続いて、リズのだらしない呻き声が洩れた。
昔、少しの間だけボクサーを目指していた時期にさえ経験したことのない、呼吸を止められるようなボディブローの苦しみが、リズの身体をせり上がってきた。
あまりの苦しさに、リズは腰を落とし、お腹を庇うように腕を下ろしてしまっていた。距離を置いて、体勢を立て直そうと、リズは後ろに下がろうとしたが、キャンディはさらに一歩踏み込んで、鉤形に曲げた左腕を振った。
青いグローブが、再び正確にターゲットを捉え、リズの首を強く捻じ曲げた。大きな衝撃にバランスを失ったリズは、何とか踏みとどまろうとしたが、リズの両脚は、リズの意思通りには動いてくれなかった。
リズの両膝が力なく折れ、リズはあっさりとキャンバスに尻餅をついた。
リズは両手で身体を支え、たった二発のパンチでダウンを奪った娘の顔を見つめた。薄笑いを浮かべているようにすら見えるその表情には、試合開始当初に見せていた怯えなど、微塵も感じ取ることはできなかった。
「…… この娘、……… 一体、何者なの? ……」
両目を丸く見開いているリズを、哀れみにも似た視線で見下ろし、キャンディは少しだけ表情を崩した。
しばらくして、両脚の自由を取り戻したリズは、気を取り直して立ち上がった。
「これは何かの間違いよ。こんな小娘に、この私がダウンを奪われるなんて。……」
しかし、すぐに反撃を開始したものの、エヴァが見込んだ実力の持ち主であるキャンディの前では、リズのわずかばかりのボクサーの経験など、まったく無力だった。
遠目から放ったリズのパンチはことごとく空を切り、また、踏み込んでパンチを当てようとすると、キャンディはいとも簡単にカウンターを合わせてきた。
キャンディの青いグローブが身体に突き刺さるたびに、リズの自信は音を立てて砕け、それは恐怖へと変わっていった。そして、リズの手数が減ってくると、キャンディはいよいよ自分から積極的に攻撃を仕掛けてくるようになってきた。
穴だらけになってしまったリズのガードの下に潜り込み、キャンディは、リズのボディに、重く、正確なパンチをどんどん打ち込んできた。ボディブローの一発ごとに体力を削り取られたリズの手は完全に止まり、ついに、リズはロープに追い込まれてしまった。
必死にガードを固めるリズだったが、キャンディは身体を沈み込ませ、脇腹あたりに強いパンチを打ってきた。限界に近づきつつあるリズはクリンチに逃げようとしたが、キャンディはリズの懐に深く潜り込み、腋に腕を差し込む隙を与えなかった。
しばらくそうしてリズの脇腹を叩いていたキャンディは、しばし手を止め、いかにも苦しそうに荒い呼吸を続けるリズに話しかけてきた。
「別に隠していたわけじゃないんですけど、あたし、ボクシングの試合とか、裏ファイトとか、今までに結構こなしてきたんです。こう見えても、一度だって負けたことはないんですよ。…… お姉様もボクシングの経験がおありのようですけど、この程度のボディブローで音をあげるようでは、ここ何年かはトレーニングをしていらっしゃらないみたいですね。うふふふ。」
キャンディの言葉を耳にしても、リズは口からマウスピースをはみ出させながら、苦しそうに呻き声を上げるだけになっていた。
リズをロープに押し込んだまま、キャンディが再びリズの脇腹を叩き始めると、リズの口から涎が垂れ、キャンディの褐色の背中へと流れ落ち始めた。
そしてついに、リズは限界を超えてしまった。
力のない悲鳴と共に、リズの下半身から黄金色の液体が噴き出してキャンバスを濡らし、リズの全身からは完全に力が抜けてしまった。口元に覗いていたマウスピースは、ねっとりとした涎の糸を引いて吐き出され、脂汗に光っている身体がキャンディの腕の中から、ずるりと滑り落ちた。
大勢のパトロンたちの前で、他のホステスたちの目の前で、自分の上客を攫っていった生意気な小娘に、舌を噛み切りたくなるような大恥をかかせ、サロンから追い出してやる。……
試合が決まってから、リズはずっとそう考えていた。しかし、…… 現実はそうではなかった。
何の苦労もなく勝てると思っていたキャンディにまったく歯が立たず、二度もキャンバスを這わされ、挙句の果てに、失禁。……
屈辱感と惨めさ、恥ずかしさに耐え切れず、リズは四つん這いになったまま、すすり泣きの声を洩らしていた。
すると、しばらくの間、リングの中央でパトロンたちの歓声に応えていたキャンディが、リズの元へと歩み寄ってきた。
「こんなに大勢のお客様の前でおもらししてしまうなんて、少しはしたなくはありませんか、リズお姉様?
…… 仕方がありませんから、トランクスを脱ぎましょうね。少しお疲れのようですから、お手伝いして差し上げますわ。」
そう言うと、キャンディはリズの腰の後ろに回り込み、リズの黒いトランクスに手を掛け、引っ張り始めた。
「…… いゃ、……… やめて、………」
「あら、…… でも、お小水まみれのトランクスで試合を続けるなんてお嫌でしょう?
遠慮なさらなくても結構ですのよ、お姉様。」
リズは消え入りそうな声で懇願したが、キャンディはそのまま力任せにリズのトランクスを毟り取った。そして、キャンディがパトロンたちの席に視線を向け、リズから奪い取ったトランクスをそこに放り投げると、パトロンたちから、また一層大きな歓声が湧き上がった。
唯一のリングコスチュームであるトランクスを失い、全裸にされたリズが、がっくりとうなだれたまま泣いていると、キャンディは、キャンバスに転がっていたリズのオレンジ色のマウスピースを拾い上げ、リズの腰のそばに両膝をついた。そして、右手のグローブでリズの髪を掴んで顔を起こさせ、目の前にマウスピースを差し出した。
「はい、これ。お姉様のマウスピース。…… まだ試合は終わっていないんですのよ。お姉様。」
リズの心の中は、言いようもない恐怖で一杯になっていた。そんなリズが、青いグローブの中に収まっているマウスピースを見つめていると、キャンディは更に残酷な言葉を続けた。
「実はね、リズお姉様、…… あたし、リングの上でなら、お姉様をどんなに苛めても構わないって、エヴァ様からお許しを頂いているんです。……
それに、パトロンの皆様も、もっと激しい試合をお望みでしょう。さあ、マウスピースを咥えてくださいな。試合を続けますわよ。」
エヴァの許し、…… それは、このサロンに於いて、すべてを正当化する免罪符であり、それがキャンディに与えられていたということが意味するものは、紛れもなく自分に向けられた処刑宣告だった。エヴァが自分を始末しようとしている。……
その絶望感に耐え切れず、リズはひと際大きな嗚咽を洩らした。
負けを認め、このリングから、…… このサロンから逃げ出したい。…… しかし、リズが足を踏み入れているリングでは、敵前逃亡、試合放棄は最大の罪。……
その罪を犯したファイターにどんな罰が待っているのか、サロンで長い間働いてきたリズは、それをよく知っていた。リズに残された道はただ一つ、差し出されたマウスピースを咥えて立ち上がり、勝てる可能性など爪の先ほども残っていない試合を続けることだけだった。
リズがしぶしぶ腰を上げてファイティングポーズを取ると、キャンディはリズをコーナーに押し込み、嬲るようなパンチを浴びせ始めた。
キャンディはなかなかリズの顔にはパンチを打たず、乳房へ、ボディへ、そして股間にさえも、青いグローブを伸ばしてきた。……
まだまだ失神などさせはしない。…… リズにははっきりとその意図を読み取ることができた。しかし、リズにはどうすることもできなかった。
やがて、お腹と同様、リズの大きな乳房も赤く腫れ上がってきた。それでもキャンディは、薄笑いを浮かべながら、この夜の生贄となった先輩ホステスを、容赦なく責め続けた。
コーナーに追い詰められたまま一歩も動けず、キャンディの陰湿な攻撃に耐え切れなくなったリズは、ついにその場に座り込んでしまった。
すると、キャンディは、すぐにリズの腋に腕を差し込んでリズを立たせ、リズの腰が伸びたことを確認すると、右手のグローブの親指部分を、リズの股間にある割れ目の中へと深く捩じ込んだ。
キャンディがそのまま腕を荒々しく動かすと、それに呼応するように、リズの口から切ない声が洩れ始めた。
「…… あぁぁ、…… ぁあん、…… い、いやぁ、……」
リズの反応を見て、小さな声で笑ったキャンディは、少し身体を屈め、ぷっくりと膨らんだリズの乳首を口に含んで、それをしゃぶり始めた。
これ以上の醜態を晒したくない。…… そう感じたものの、疲れ切っているリズには、徐々に昂ぶっていく自分の身体をコントロールすることなどまったくできなかった。リズの身体に流れる心地良い電流は、確実にリズを昂ぶらせ、口から洩れてくる喘ぎ声も次第に大きくなってきた。
やがて、ひと際大きな声を上げたリズの身体が一瞬だけ硬直し、続いてすべての力が、リズの身体から抜け落ちた。
リズは、大勢のパトロンが見つめるリングの上で上り詰めてしまった。
背にした黒いコーナーマットからずるりと滑り落ちたリズは、下段ロープに腕を引っ掛けたまま、わずかに身体を痙攣させていた。リズの股間からは、まだとろとろと熱い液体が垂れていた。
自分よりも身体の小さい娘に一方的に殴られ続け、リングの上で失禁し、強いられた頂点に上り詰める。……
これ以上ない恥辱に、リズの精神は完全に打ちのめされ、身体を動かすことを命じるのを止めていた。悲しい、苦しいと感じることさえも重荷になってきていた。
キャンディは身体を屈め、がっくりとうなだれているリズを見下ろしていた。
「リングの上で犯されるお気持ちはいかがでしたか、リズお姉様? とても気持ち良さそうにしてらっしゃいましたよ。うふふふ。」
キャンディは、股間近くに視線を落として、力のない呼吸を続けるだけになってしまっているリズの顔を右手のグローブで起こし、自分の方に向けた。
「でも、どうやら失神はなさらなかったみたいですから、まだ試合は終わりではないのですよ、お姉様。」
これだけ惨めな想いをさせられても、まだ試合は終わらない。…… その事実を突きつけられると、リズの思考回路はわずかに回転し始めた。そして、それは、命乞いの言葉となって、リズの口から洩れてきた。
「…… 許して。……… お願い、…… もう許して。……」
「あら、いけませんわ、お姉様。このリングでは、ルールで定められた通りに勝敗がつくまで、試合は終わらない。…… それは、お姉様が一番よくご存知のはずでしょう? たとえお姉様の頼みでも、それだけは叶えることができませんわ。…… さぁ、お立ちになってください、お姉様。試合を続けますわよ。」
まだ試合が終わらないと念を押されても、精神的に崩壊しているリズには、立ち上がる力など爪の先ほども残っていなかった。キャンディがリズの身体を持ち上げても、リズの膝にはまったく力が入らず、ただその場にへたり込んでしまうだけだった。
そんな試みを何度か繰り返したあと、キャンディはリズの身体をリングの中央へと引きずっていき、放り投げるようにして、リズをキャンバスに横たわらせた。そして、まったく動く素振りを見せないリズの身体を爪先で仰向けにすると、お腹の辺りにどっかりと腰を下ろした。
「もう立っていられないようですから、このままの格好で攻撃させていただきますわね、お姉様。」
キャンディの拳を覆っている青いグローブが、リズの乳房にまた振り下ろされ始めた。そして、その一発ごとに、真っ赤に腫れ上がったリズの乳房は大きく歪み、波打った。
リズは、ときおり、腕で胸を庇う仕草を見せた。しかし、キャンディは簡単にその腕を払いのけると、再び無防備にさらけ出されたリズの乳房に、容赦なくパンチを浴びせ続けた。
しばらくすると、リズの腕の動きは止まり、ぐったりとキャンバスに四肢を放り出して、邪悪な拳が乳房を歪ませるたびに、小さな悲鳴を上げるだけになってしまった。
やがて、キャンディが、リングの外から試合の様子を眺めているエヴァにちらっと視線を向けると、エヴァはにやりと笑い、何か合図を送るように小さく頷いた。エヴァの仕草を確認したキャンディも、「わかりました。」と言いたげに小さく頷き、キャンバスでぐったりしているリズの方へと視線を戻した。
「エヴァ様にお許しをいただきました。今、楽にしてさしあげますわね、お姉様。」
そう言うと、キャンディは少しだけリズの頭の方に身体をずらし、リズの身体の上に馬乗りになったまま、リズの顔をめがけて拳を振り下ろした。
最初の一発でリズの口からマウスピースがこぼれ落ちたが、キャンディは気にする様子も見せず、まったく無抵抗のリズの顔面に、次々とパンチを浴びせた。
四発、五発、六発、…… 殴られ続けるリズの顔から、ついに表情が消え失せた。
キャンディの青いグローブに血の跡がつく頃には、リズは白目を剥き、完全に失神してしまっていた。
リズが気を失っていることを確かめると、キャンディは手を止めた。
「さようなら、リズおばさん。」
血だらけのリズの顔を見下ろして、そう呟いたキャンディは、腰を上げて立ち上がり、リズの顔を踏みつけて勝者のポーズを取った。
少し肩をすくめ、年頃の娘をイメージするような可愛いポーズで勝利をアピールするキャンディに、リングを取り囲むパトロンたちから、より一層大きな歓声が上がった。
リングを降りたキャンディは、仲間のホステスにグローブとバンデージを外してもらい、すぐにホステスの仕事に戻った。白いトランクスとリングシューズ姿のままで席を回るキャンディに、パトロンたちは次々と賞賛の言葉をかけ、キャンディもはにかむような笑顔でそれに応えた。
リングに落とされている照明は、相変わらず無様な姿でキャンバスに横たわり、ぴくりとも動かなくなったリズを照らしていた。その周りで、パトロンたちは高級な酒に酔い、キャンバスの上で大の字になっているリズを眺めながら、その夜の試合について楽しげに語り合っていた。
褐色肌の娘がファイターとしてデビューした次の週、リングを取り囲むパトロンたちの席の中には、サロンのファイターとして輝かしいデビューを果たし、また、売れっ子ホステスの地位を不動のものにしたキャンディの姿があった。
そして、その娘に悪夢のような一夜を経験させられたベテランホステスが、二度とこのサロンに足を踏み入れることはなかった。