Lez-Box a go-go!!


第四話




 AFI初代バンタム級王者に認定され、以来無敗のまま五年に渡って王座に君臨し続けていたチャンピオンは、だらしのない声を洩らし、両膝を折って、キャンバスに両手をついていた。試合が始まってから、四度目のアクメを迎えたチャンピオンの股間からは、また熱い湧き水が漏れ出し、べったりと貼り付いたゴールドのチャンピオントランクスの裾から、キャンバスへと滴り落ちていた。

 純白のトランクスを身につけた麗子は、そのすぐ横のコーナーマットに背に、上段ロープに腕を伸ばして、陥落寸前のチャンピオンの醜態を見つめていた。麗子は荒く呼吸を繰り返していたが、勝利を確信したその瞳は妖しく輝いていた。


 麗子はデビュー戦で慧を破ってからも連勝街道をひた走り、デビューしてから二年足らずでチャンピオンに挑戦する権利を掴み取っていた。そして、初挑戦となるこの日もチャンピオンを責めまくり、チャンピオンをすでに四度頂点に導き、そのたびごとにキャンバスに這わせていた。


 あまりの快感の激しさに、チャンピオンは四つん這いになったまましばらく動くことができなかった。サブレフェリーの一人が「チャンピオン戦闘不能」の判定をしたほど、チャンピオンの姿は惨めだった。

 ダウンしてから有に一分が経過したあと、目にうっすらと涙を溜めたチャンピオンは、ロープに手を掛けて、ゆっくりと立ち上がった。それでもチャンピオンの膝は震えたままで、なかなか麗子の方に身体を向けることができなかった。


 麗子がゆっくりと近づいても、チャンピオンはロープに背中を凭れかけ、腕を中途半端に上げているだけだった。麗子がチャンピオンのボディとアゴに一発ずつ強烈なパンチを放つと、チャンピオンのガードはあっけなく全壊してしまった。それを見届けると、麗子はわずかに赤く腫れたチャンピオンの乳房をターゲットに定め、集中的に狙い打った。麗子のパンチを受けるたびに、チャンピオンのたわわに実った乳房は大きく波打った。

 一撃ごとに、チャンピオンの身体中を狂おしいほどの快感が突き抜け、チャンピオンは早くも次のアクメを迎えようとしていた。麗子は膝を折りかけたチャンピオンの身体を支え、ロープに押し込んで、ぐっと乳房を押し付けて、チャンピオンの乳房を揉みしごくように身体を捻った。

「チャンピオンベルトは私がいただくわ。…… 長い間、ご苦労様でした。それじゃ、敬意を表して、きっちりフィニッシュして差し上げますわね。」

 麗子がチャンピオンの耳元でそう囁くと、左腕をチャンピオンの腋から抜き、青いグローブをびしょ濡れのチャンピオントランクスの上からチャンピオンの股間にに宛がい、荒々しくさすり始めた。チャンピオンの目からは涙がこぼれ始め、呻き声は泣き声に変わっていた。

 やがて、三度ほど大きな声を上げたチャンピオンは、ぶるっと身体を震わせ、両膝をカクンと折った。麗子が右腕もチャンピオンの腋から抜くと、チャンピオンはキャンバスへと滑り落ちていった。その動きと逆行するように、麗子は右腕を強く振り上げた。チャンピオンの顔が激しく縦に揺れ、マウスピースが天に向かって吹き飛んだ。

 キャンバスの上で弾んだチャンピオンの身体は、やがて仰向けになったまま、激しく痙攣し始めた。審判団が一斉に「チャンピオン戦闘不能」をコールし、新しい世界チャンピオンの誕生を告げる長いブザーが、会場一杯に響き渡った。

 初めてリングの上で全裸にされたチャンピオン、いや元チャンピオンは、新チャンピオン誕生のセレモニーが始まっても、意識を失って大の字にキャンバスに伸びたまま、びくんびくんと身体を痙攣させていた。そのすぐそばでは、腰にしっかりとチャンピオンベルトを巻いた麗子が、元チャンピオンの汁にまみれたゴールドのトランクスを掴んだ右手のグローブを高々と差し上げ、観衆の声援に応えていた。







 麗子がAFIのタイトルを手にしてから半年ほどが経ったある日、慧は麗子の部屋のベッドの上に寝転がり、麗子が表紙を飾った「月刊アクメボクシングワールド」誌を眺めていた。


 麗子はひと月ほど前に元チャンプとリターンマッチを行い、リングの上で再び元チャンプを溶かし切り、AFIの王座を防衛していた。

「完敗だ。私はこの先何度試合をしてもレイには勝てないだろう。私はこの試合を最後に引退するつもりでいる。これから長い間、レイは王座を守ることになると思う。」

 試合後に行われたインタビューで、元チャンプはそうコメントし、すでにAFIのリングを去っていた。


 慧も二週間ほど前に世界ランキング二位の選手を倒し、麗子のタイトルに挑戦できる権利を得るランキング五位までに入ることがほぼ確実になっていた。

「ねえ、結婚のこと、考えてくれた?」

「え? ……… あ、…… うん。……」

 世界タイトルを手にしたあと、麗子は慧に、「私と結婚しないか」と持ちかけていた。すでに、数年前に同性の結婚を認める法律が議会を通過していて、二人はそれぞれ、お互いを結婚相手にと考えていた。

「……… ボクも、レイと結婚できるのはすごく嬉しいんだけど、……」

「嬉しいんだけど、…… 何よ。」

「うーん、その『私のお嫁さんにしてあげる』って言い方、何とかならない? ……」

「あら、当然でしょ? だって私、チャンピオンだもん。」

「確かにそうかも知れないけど、……… ああー、どうしても引っかかるなぁ。」

 慧は雑誌を放り出し、ベッドの上で仰向けに四肢を投げ出した。それまで慧の横に並んで話をしていた麗子は、慧を覆うように身体を動かして、慧の顔のすぐそばに手をつき、じっと慧の顔を見つめた。

「じゃ、こうしましょ。正式に次のランキングが発表になって、サトルがタイトル挑戦条件の五位をクリアしていたら、次のタイトルマッチの挑戦者に指名してあげる。で、もしタイトルマッチでサトルが私に勝ったら、サトルのお嫁さんになってあげるわ。でも、サトルが負けたら、おとなしく私の嫁になるのよ。これならいいでしょ?」

 慧はしばらく真剣に麗子の顔を見つめていたが、やがて力強く頷いた。

「よーし、今度は負けないぞ。結婚はしたいけど、『レイの嫁』って呼ばれるなんて、真っ平御免だからね。」

「あら、私に勝てるとでも思ってるの? その割には、こないだの試合、ずいぶん苦労してたじゃない? あんな調子じゃ、また観戦にいらしたお客様に、リングの上ではしたない姿を晒すのが関の山よ。」

「言ったなぁ。」

 慧は表情を崩し、麗子の身体を抱き寄せた。そしていつものように、二人は激しく愛し合った。お互いの身体を貪りながら、二人はタイトルマッチという大きな舞台で試合ができることを喜び、「この試合には絶対に負けない」と心に誓った。



 それから二ヵ月後。

 とある有名ホテルのホールで記者会見が行われ、慧と麗子はAFIの立会人を挟んで多くの記者たちに顔を向け、立て続けに切られるシャッターの音を聞きながら、カメラのフラッシュを浴びていた。立会人は、次回のAFI世界バンタム級タイトルマッチが麗子と慧の間で行われることを正式に発表し、さらに、試合後に二人が結婚すること、試合に勝った方が負けた方を嫁にすることを付け加えた。異例の婚約発表会見に場内はざわめき立ち、二人に浴びせられるフラッシュの数も、一向に減る気配はなかった。








 チャンピオンとなり、名実ともにAFI一の人気選手になっていた麗子と、AFI登録選手の中で、ただ一人の純血の日本人選手として、これも一部に熱狂的なファンを持つ慧の対戦は、笑い話では済まないほどのチケット争奪戦を生んだ。負けたら相手の嫁になる、という試合の背景も、多くのファンを狂わせた。莫大な金額をAFIに支払って独占放送契約を獲得した結んだあるケーブルテレビの会社は、結果としてAFIに支払った何倍もの利潤を産み出すに充分な、新規顧客を確保した。

 そしてついに、「世界タイトルマッチ」という大きな舞台で、二人が文字通り雌雄を決するときがやってきた。会場には、プラチナチケットを手にした観客が世界中から集まった。前座の数試合が終わり、二人がリングに上がると、会場は異様な熱気に包まれ、パニック寸前になっていた。

 試合開始のゴングが鳴り、ゴールドのチャンピオントランクスを穿いた麗子と、デビュー戦の時と同じ、白地に赤トリムのトランクスを身につけた慧は、跳ねるようにコーナーを離れ、リングの中央で軽くグローブを触れ合わせた。

 二人のデビュー戦のときと同様に、麗子は最大量の性的刺激促進剤を指定していたので、すでに二人の身体は襲い掛かる快感を受けてじっとりと汗ばみ、薄手のトランクスは股間に貼り付いていた。




 わずかに押され気味になりながらも、慧は堂々とチャンピオンの麗子を迎え撃ち、二人は激しい闘いを演じた。試合が始まってから二十分が経過したころには、二人は二度ずつリングの上で上り詰めていた。

 周囲の予想以上に頑張った慧だったが、失禁を伴った二度目のアクメを超えたあたりから、だんだん動きが鈍り始めてきた。手数が落ち、ロープ際に追い詰められた慧の全身に、容赦なく麗子の連打が飛んだ。



 二度目のアクメからわずか三分足らずで、慧の身体は三度目の頂点を迎えようとしていた。そして、麗子のワンツーが慧の乳房を直撃すると、あっさりと上り詰めた慧は、たまらずに膝を折った。慧は必死に麗子にすがり付こうとしたが、その腕は麗子の身体をずるりと滑り落ち、慧の両膝がキャンバスに落ちた。

 それでもなお、慧は赤いグローブを麗子の太股にかけ、麗子にすがった。麗子は慧の無様な格好を見下ろし、不適な笑みをこぼすと、気持ち良く慧の顔へと黄金水を吹きかけた。顔への放水が終わるのとほぼ同時に、太股にかけられた慧のグローブがずり落ち、慧はキャンバスに四つん這いになった。麗子に許しを乞うているようにも見える慧の無様な姿を眺めていた麗子の顔に、えもいわれぬ恍惚感が浮かんだ。



 しばらくキャンバスに四つん這いになって身体を震わせていた慧は、近くにあったロープにグローブをかけて、ゆっくり立ち上がってきた。少しぼんやりした表情の慧が麗子の方に身体を向けると、麗子はすっと慧の正面に立った。

 麗子はあっさり慧をコーナーに追い込むと、慧に抱きついて大きな乳房をぐいぐいと慧の胸に押し付け、身体を捻った。慧の乳首はぴんぴんに勃ち、そこにわずかな刺激を受けるたびに、慧はあまりの快感に顔を歪め、だらしのない声を洩らした。

 しばらくそうして慧の乳房を責めていた麗子は、ぐっと腰を突き出し、慧の股間に自らの一番敏感な部分を宛がい、身体を揺らしながら擦り始めた。すぐにトランクスの裾がはだけ、直にぴったりと重なり合ったの二人の小さな股間の膨らみは、汁とも蜜ともつかない光る液体にまみれ、カクテルライトに輝いていた。

 慧は両腕を麗子の腕に回し、喘ぎ声を洩らすだけになっていた。が、麗子もまた、あと少しで次のアクメを迎えるところまでに昂ぶっていた。

「もったいないから、このままイっちゃお。慧をフィニッシュするのは、それからでも遅くないわ。……」

 そんなことを考えながら、麗子は淫靡な声を上げ、女性自身を強引に慧の股間に押し付け、激しく擦った。

 麗子はあまりの快感に一瞬だけ目を閉じ、身体を竦めた。同時に、麗子の大きな乳房がぷるんと外側に揺れた。そしてその何十分の一秒かの後に、そのぼやけた表情からは想像もつかないほどの強烈な慧のアッパーが、身体を少しだけ折り曲げた麗子の動きのカウンターとなって、麗子のアゴをまともに捉えた。麗子の顔が大きく縦に揺れ、麗子の口からは、マウスピースが真上に弾け飛んでいた。



 慧のアッパーを食った衝撃で、今までに一度も経験したことのない、狂おしいまでの快感を受け、麗子は頂点を突き抜けた。


 慧が無意識に放った逆転の一撃は、麗子の戦闘力を根こそぎ奪い去ってしまっていた。キャンバスに仰向けに倒れた麗子は、激しい痙攣に身体を震わせた。麗子の意識ははっきりしていたが、麗子の身体は、まだなお大波のように襲い掛かってくる快感に、まったく麗子の言うことを聞いてくれなかった。

 「このままだと負けちゃう。……… 早く、…… 早く、立たなきゃ。……」

 そう感じた麗子は、何とか身体を転がして、四つん這いになった。股間から愛液を垂れ流しながら、数十秒ほどそうしていた麗子は、まだ全身を震わせながら、必死に立ち上がった。


 背にしたロープに寄りかかり、両足だけでやっと立っている麗子に、まだぼやけた表情のままの慧がまっすぐに近づいてきた。無防備に近づいてくる慧に、麗子は右腕をスイングしようとしたが、身体の自由を取り戻せないでいる麗子の腕の振りは、スローダンスを踊っている程度のものにしかならなかった。慧はお構いなしに麗子に身体を寄せると、おもむろに麗子の乳首を口に含み、舌先で転がし始めた。

「…… い、…… いやぁっ、……」

 麗子は思わず声を上げてしまった。それでも慧の愛撫は益々激しくなるばかりだった。麗子の身体を抱え込んでいる右腕の先についている赤いグローブは、麗子の開いているもう一つの乳首を優しく捏ね、もう一つのグローブは麗子のチャンピオントランクスの中に入り込んで、あとからあとから流れ出てくる麗子の愛液の中で荒々しく動いていた。



 もはや、二人の立場は完全に逆転してしまっていた。一心不乱に麗子の身体を愛し続ける慧の責めに、麗子は口を閉じることもできずに、だらしなく涎とよがり声を洩らし続けた。

 慧が動くごとに身体中を駆け抜ける快感に、麗子の意識はだんだん濁ってきた。そして、慧のアッパーを食らってから、一度も攻めに転じることなく迎えようとしている次のアクメが近づいてきた。麗子の視線は宙を泳ぎ、洩れ続けている喘ぎ声も大きなものに変わってきた。

「ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 麗子が狂人のような叫び声を上げると、おびただしい量の愛液が、麗子の股間から一気に噴き出した。麗子の全身から力が抜け、その身体は、すぐに慧の腕からキャンバスへと滑り落ちた。再び激しい痙攣に襲われた麗子の意識は、完全に吹き飛んでいた。

 三つのレフェリー席の前にある黄色いランプが次々と点灯し、チャンピオンである麗子が戦闘不能に陥ったとレフェリーが判断したことが示された。



 ロープに寄りかかり、相変わらずぼんやりとした意識の中で試合終了のブザーを耳にした慧は、すぐそばで全身を痙攣させたままになっている麗子の身体に覆い被さった。そして、麗子の身体を抱きしめて、麗子の唇を貪り始めた。






 慧が新しい世界チャンピオンになってから二ヵ月後、二人の結婚式が行われるホテルの駐車場には、どこから集めたのか不思議になるほどの超高級車が所狭しと並んでいた。


 自分に割り当てられた控室の中で、白のタキシードに身を包んだ慧は、親族との会話を楽しみながら、麗子がウエディングドレスに着替え終わるのを待っていた。

 慧は、麗子のウエディングドレス姿に想いを馳せた。式やその後のパーティなど、二人はいつも一緒にどうするかを決めていったが、ウエディングドレスのことになると、麗子は一切口をつぐみ、仮縫いや試着の時にも慧を同席させなかった。…… まあ、麗子のやりたいようにやらせてあげるのが一番だろう。…… 慧は、麗子のウエディングドレス姿を拝むのを、式の当日まで楽しみに取っておくことに決めていた。

 慧の控室の外でわずかに足音がした。足音は控室のすぐ外で止まり、間を空けずに、控室のドアがノックされた。ノックに麗子独特のリズムがあったので、慧は自らドアまで進み、ゆっくりとドアを押し開いた。

 慧はドアの外に立っている娘の姿に見とれたまま、深い息を洩らした。そこに立っていたのは、少しクラシックな感じのする、純白のウエディングドレスに身を包んだ麗子だった。

「どう? 似合うでしょ? あんまり普通すぎて、拍子抜けしちゃった?」

 麗子が慧に問いかけても、慧はしばらく返事ができなかった。麗子のウエディングドレス姿は、まるでフランス人形のように美しかった。

「…… 綺麗だよ。…… レイ。……」

 小さく首を横に振ってそれだけ答えた慧は、その後も麗子に見入っていた。…… ウエディングドレスは女の子の憧れ、…… 麗子の嫁になるのだけは嫌だと言い張り続けていたが、ウエディングドレスを着ることだけは経験してみたかったな、…… と、慧は思った。

「サトルも、ウエディングドレスだけは着たかったでしょ?」

 麗子の問いかけに、慧は一段表情を崩し、素直に「もちろん。」と答えた。すると、麗子は慧の手を取り、自分が入ってきたドアの方へ、半分だけ身体を向けた。

「じゃ、こっちいらっしゃい。」

「え?」

「サトルの分も、ちゃあんと用意しておいてあげたわよ。私と同じ、ウェディングドレス。」

 慧は少しの間、麗子が何を話しているのか理解できなかった。ようやく状況を呑み込んだ慧が控室の中を見渡すと、慧の分もウエディングドレスがあることは当日まで秘密だと麗子に念を押されていた慧の両親や三つ年上の姉が、にこやかな微笑を慧に向けていた。慧は満面の笑みを麗子に向け、大きな声で「うんっ。」と答え、麗子と一緒に控室を後にした。





 結婚行進曲が流れる中を、揃いのウエディングドレスに包まれた慧と麗子は、祭壇の前で待つ神父の許へ、一歩一歩近づいていった。

 二人が祭壇の前で立ち止まると、聖職者にはうってつけの、とても人好きのする穏やかな笑顔を満面に湛えた神父は、簡単な挨拶の言葉を述べた。そして、一旦言葉を切り、その笑顔を並んだ二人の花嫁に向けた。

「高橋慧。汝はレイコ・フジサキを生涯の伴侶として、愛し続けることを誓いますか?」

「はい。誓います」

「では、レイコ・フジサキ・ハワード。汝も高橋慧を生涯愛することを誓いますか?」

「はい。誓います。」

 神父が心から嬉しそうな笑みで、もう一度二人を見渡し、二人に誓いのキスを促すと、慧と麗子は少しだけ照れくさそうに来場客の席を見回したあと、永遠の愛を誓ったパートナーの方に身体を向けて、じっと見つめ合った。

 慧が一歩前に進み、麗子の身体をそっと抱き寄せると、麗子も慧の身体に腕を回した。そして、ゆっくりと顔を近づけた二人の唇は、やがてぴったりと重なり合った。







 結婚式の直後にAFIが手配したプライベートジェットで日本を離れた慧と麗子は、そのままアメリカ西海岸にある新居へ向かった。そこで二日ほどゆっくりと身体を休めたあと、二人は世界一周の新婚旅行へと旅立つことになっていた。

 約半日かけて荷物を整理し、仲良く二人でシャワーを浴びたあと、慧と麗子はベッドルームに足を運んだ。慧が麗子より一足先に大きなベッドの上に寝転がると、麗子もベッドの上に上がり、仰向けに身体を伸ばしている慧の側に身を横たえた。

 二人はしばらく他愛のないおしゃべりをしていたが、ちょっとだけ話題が切れた頃合に、麗子は身体を起こした。そして、相変わらず仰向けになっている慧の身体を覆うように身を寄せ、慧の顔のすぐ横に手をついて、慧の顔をじっと見つめながら、口を開いた。

「ねえ、サトル。…… リターンマッチ、組んでくれるわよね。」

 麗子が真顔でそう言ったので、慧は思わず吹き出してしまいそうになった。

「うふっ。もちろん。」

「今度は負けないわ。…… リターンマッチでは、必ずサトルをKOして見せる。」

 慧は、ふと、過去に同じようなセリフを麗子の口から聞いたような気がした。慧はすぐに返事をするのを思いとどまり、麗子の顔を見つめたまま、記憶を遡っていった。そしてそれが、二人が高校時代に初めて対戦した直後に、麗子の部屋のベッドの上で聞いたものであることを思い出した。慧はニヤッと笑って、その時とまったく同じ言葉を返した。

「ボクだって負けないよ。返り討ちにしてやる。」

 麗子は先に自分が口を開いたときにはそれに気付いていなかったが、慧の反応を見て、高校時代に始めて負けたあとのやりとりとまったく同じであることを思い出し、プッと吹き出したあと、声を上げて笑った。


 麗子の笑い声が途絶えた頃には、二人はじっとお互いの目を見つめ合っていた。そして、お互いの頬を摺り寄せ会った二人は、相手に回している腕に少しだけ力を込め、ぴったりと唇と唇を重なり合わせた。

 最高のライバルとして、そして、最愛のパートナーとしての契りを交わした二人は、お互いの「愛してる」の中で、いつまでも唇を慈しみ合っていた。




「Lez-Box a go-go!!」 了


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